お母様を亡くされたご長男から、遺言書を偽造した弟の相続についてのご相談です。
1.ご相談者
50代の男性
①被相続人
母
②相続人
ご相談者(長男)の他に弟がいる
③相続財産
現金、預金、不動産
2.ご相談の内容
母が亡くなりました。父は既に他界していて、相続人は、長男の私と弟です。
母が亡くなってしばらくして、弟から突然、母の自筆の遺言書を見せられました。遺言書には、全ての財産を弟に相続させる内容が書かれていますが、生前、母からそのような遺言の話しは全く聞いていませんでした。
弟は、以前から母にお金を無心していて、お金のことで度々母と揉めていました。また、遺言書に書かれてある日付の当時、母は認知症で施設に入所していたので、遺言書を書けるような状態ではありませんでした。
母の遺言書を偽造してまで財産を独り占めしようとする弟に、相続財産を分けないといけないのでしょうか?
3.ご相談への回答
相続人が遺言書を偽造した場合、相続欠格者として相続人の資格を剥奪することができます。
(1)どんな場合に相続人になれないの?
夫や妻(配偶者)は常に相続人になり(民法890条)、血族については、子(民法887条)、祖父や祖母(直系尊属)(民法889条1項1号)、兄弟姉妹(民法889条1項2号)の順に相続人になります。
ただ、次のような場合には、相続人になることができません(民法891条)。
①故意に被相続人・相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡させ、または死亡させようとしたために刑に処せられた者
②被相続人が殺害されたことを知っているのに告発・告発しなかった者
③詐欺・強迫によって被相続人の遺言・撤回・取消・変更を妨げた者
④詐欺・強迫によって被相続人に遺言をさせ、遺言の撤回・取消・変更をさせた者
⑤被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者
このような事実があると、当然に相続人の資格を剥奪されてしまいます。
これを「相続欠格」といいます。
(2)どんな場合に偽造が認められるの?
たとえば、妻の子供が後妻に、遺言の偽造を理由に相続権がないことの確認を求めた事案で、裁判所は、A(被相続人)は込み入った話が不可能で、箸を持つことも相当困難であり、本文部分だけでなく、氏名部分も後妻が自筆したとする筆跡鑑定を根拠に、後妻による遺言書の偽造を認めました(東京地裁H18.4.21判決)。
ここでは、偽造の立証として、筆跡鑑定が利用されました。
(3)偽造が認められない場合はどんな場合?
ただ、偽造の現場を見ているわけではないので、相手方が遺言書を偽造したことを立証するのは簡単なことではありません。
実は、先程の判例では、後妻だけでなく、先妻の子供も遺言を持っていたため、後妻もその遺言の偽造を主張して、筆跡鑑定を提出しました。
しかし、裁判所は、先妻の子供が持っていた遺言については、筆跡鑑定の合理性を否定して、偽造ではないとしたのです。
ここでも、偽造の立証として、筆跡鑑定が用いられましたが、採用されませんでした。
他にも、母の相続にあたって、全財産を長女に相続させる自筆の遺言の無効と、遺言の偽造による長女の相続権がないことの確認を求めた事案では、母が高度の認知症であったため、遺言をする能力がないとして、遺言は無効となりましたが、長女による遺言の偽造は認められませんでした(東京地裁H27.3.18判決)。
このように、偽造ではないとされることも多くあります。
4.ご相談者へのアドバイス
ご相談者の場合も、遺言書が偽造であれば、弟に相続権がないことを主張することはできます。
ただ、先程も説明したとおり、相手方が遺言書を偽造したことを立証するのは簡単なことではありません。偽造でないと判断されることも多くあるので、相手から偽造していないと言われると、やはり裁判で決めるほかありません。
ご相談者の場合、お母様が遺言書を書けるような状態ではなかったということなので、場合によっては偽造と判断される可能性はあります。
また、認知症で施設に入所していたということなので、遺言が無効となる可能性があります。
なお、認知症によって遺言が無効だからといって直ちに偽造とはならないので、その点は注意が必要です。
5.今回のポイント
被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者は、相続人になることができません(民法891条5号)。
偽造の場合、その現場を見ているわけではないので、相手方が遺言書を偽造したことを立証するのは簡単なことではありません。
遺言書の偽造の立証の方法として、筆跡鑑定が用いられることがありますが、筆跡鑑定があるからと言って、必ず偽造になるわけではありません。
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